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旭川地方裁判所 昭和23年(行)8号 判決

原告

伊藤豐次

被告

主文

被告は原告所有に係る旭川市大町一丁目三十番の六畑一町七反九畝七歩を買收すべからず。

原告その余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は二分し其の一を原告、其の余を被告の負担とする。

請求の趣旨

一、被告は原告所有に係る旭川市大町一丁目三十番地の六畑一町七反九畝七歩を買收すべからず。二、被告が昭和二十二年五月二十六日原告所有に係る同市永山村四百七十八番地の二畑五反歩及び同市永山村四百六十九番地の三畑九反五畝十六歩に対して爲した土地買收処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とす。

事実

原告訴訟代理人は、其請求原因として旭川市大町一丁目三十番の六畑一町七反九畝七歩(以下甲地と仮称する)同市永山村四百七十八番地の二畑五反歩及同市永山村四百六十九番地の三畑九反五畝十六歩(以下両地を併せて乙地と仮称する)は全部原告の所有地であつて現に原告が訴外神原シメ外三名に貸與して居り同人等に於ては該土地を農耕の用に供して居る而して原告は現に札幌市に居住して居る爲本來ならば右甲乙両地とも不在地主の小作地として自作農創設特別措置法に依り当然政府に買收せられるべきものである然し乍ら右甲乙両地共に旭川市の中央部に位し人口密集部に近接して居り交通至便の地であり附近に國策パルプ株式会社等の大工場を控え且旭川市都市計画地域内に在るのみでなく近時國家的住宅の不足せる現情等に照し住宅工場等旭川市の膨脹が此の方面に向うこと必至であり殊に乙地は昭和十一年創立された公法人新旭川第一土地区画整理組合が都市計画法第十二條第一項に依り区画整理を行つた土地である許りでは無く近時該土地には大病院を建築しようと試みたものが有つた程であつて右甲乙両地共近く其使用目的を変更することを相当とする土地である、從つて右両地共自農作創設特別措置法第五條第五号に依り買收から除外せらるべき土地である、然るに甲地に付旭川市旭川地区農地委員会に於て乙地に付同市旭新地区農地委員会に於て夫々該土地が自作農創設特別措置法第三條第一号に該当する土地であつて政府に於て之を買收すべきものであるとし買收計画を樹て昭和二十二年三月十五日其旨公告した其処で原告は同月二十五日甲地の買收計画に対し旭川地区農地委員会に異議の申立をしたところ同農地委員会では翌二十六日該異議の申立を却下したので更に北海道農地委員会に対し訴願したが同年五月三日同農地委員会では右訴願を理由無いものとして棄却した從つて北海道農地委員会は旭川地区農地委員会の樹てた前記甲地買收計画を正当であると認めたのであつて旭川地区農地委員会が前記甲地に対する買收計画に対し承認を求めた場合之に承認を與えること必至であり又北海道知事に於ては当然該承認に基いて甲地を買收すべきことゝなつて居る爲原告の甲地に対する所有権は該買收処分に因つて侵害せられること必然であり將に危殆に瀕するの状態に在る仍て原告は被告に対し甲地に対し不法な買收処分の禁止を求める、又乙地に付いては原告が札幌に在住して居た爲買收計画に付公告の爲された事実を知らなかつた爲異議申立等の手段を採らなかつたので旭新地区農地委員会では同年三月三十一日前記乙地に対する買收計画に付北海道農地委員会の承認を受け次いで北海道知事は同年五月二十六日右北海道農地委員会の承認した乙地買收計画に基いて乙地に対する買收令書を発し該買收令書は同年七月二日原告に交付された、然し乍ら前記の通り該土地は近く其使用目的を変更するのが相当な土地であるから甲地の場合と同樣買收から除外せらるべきである。然るに被告は乙地を買收から除外することなく不当に該土地を買收し原告の乙地に対する所有権を侵害したので原告に於ては乙地に対する被告の右不法な買收処分の取消を求めるものである仮に右主張が理由の無いものであるとしても乙地に対する買收処分に関し先ず旭新地区農地委員会は其買收計画を公告するに当つて單に旭川市役所前の掲示場に掲示したに止まり其他何等不在地主に之を告知するの方法を採らなかつたものであるが此の樣な公告方法は在村地主に対する告知方法としては或は適当であるかもしれぬが不在地主は該掲示を見る機会なく之を知り異議の申立等を爲すに由なきもので徒らに不能を強うるものと謂うべく不在地主に対する告知方法としては到底正当なものとは謂うことが出來ないので該公告は無効なものである從つて不在地主である原告に対しては其買收計画を公告せずして乙地を買收したものであるから乙地に対する買收処分は違法であり取消されるべきである、仮に然うでないとしても旭新地区農地委員会は原告及小城喜市外百二十五名所有の乙地共合計三百三十二筆の土地を一括して買收すべく計画し其旨公告したものであるが其内訴外大阪幾太郞外四十六名の者から合計百二十一筆の土地に対し其買收計画に付異議の申立が有つたところ同農地委員会に於ては之等の異議に付決定し之に対し訴願が有つた場合其訴願に付裁決が終つた後初めて其全部である乙地等三百三十二筆に対し買收計画を進行すべきであるに拘らず先ず異議の無かつたものの内本件乙地外百八十七筆の土地買收計画に付北海道農地委員会の承認を受け次で北海道知事は該土地に買收処分をしたのであつて右は自作農創設特別措置法第八條に違反し総ての異議申立に付決定をし又は総ての訴願に付裁決をせずして買收計画に付北海道農地委員会の承認を受けた違法があり該承認は無効である從つて北海道知事は北海道農地委員会の承認なくして乙地を買收したものと謂うべきで該買收処分も亦違法で取消さるべきである仮に右買收計画が当初の買收計画を進行したので無く異議の申立無かつた部分に付いて新に買收計画を樹て該買收計画を進行したものであるとすれば旭新地区農地委員会は該買收計画を更に公告し関係人に対し異議申立の機会を與えるべきであるのに拘らず更に該買收計画に付公告することなく漫然と異議の無い部分に付き北海道農地委員会の承認を求め同委員会が之に承認を與えたのは該買收計画に対する公告が無いのに之が承認を求め之に対し承認を與えた結果となり該買收計画に対し関係人に異議申立をする機会を與えず不法に人民の所有権を侵害した違法があり牽いて之に基いて爲された北海道知事の買收処分も亦違法たるを免れない從つて此点からしても乙地に対する買收処分は取消されるべきであると陳述し被告の抗弁に対し本件甲乙両地に対し孰れも自作農創設特別措置法第五條第五号所定の指定が無い事実及被告の主張日時買收除外並賣渡保留地区委員会に於て被告の抗弁する樣な決定が爲され該決定に対し農林大臣の認可が有つた事実は爭いないが該処分に対しても独り行政廳が認定権を有し該認定が最終のものであるとの被告の抗弁は從來の行政訴訟の観念であつて正当ではなく現在の法制上に於ては総ての処分が適法であるか否かの最終の判断をするものは裁判所であつて自作農創設特別措置法第五條第五号の指定が無い場合でも同号の指定を受くべき状態に在る農地を同号の指定をせず之が買收を爲すは違法であり之が判定は裁判所の判断に俟つべきである又被告は処分禁止の裁判を求める訴は不適法であり棄却を免れない旨抗弁するも行政訴訟に於ては單に行政処分の取消及之が変更を求め得るに過ぎず行政処分の禁止を求め得ないものであるとするが如きは旧憲法時代に於ける行政訴訟の観念であつて新憲法下に在つては前記の通り甲地に対する訴願が北海道農地委員会に依り棄却せられ同委員会が甲地に対する買收計画に承認を與えること必至であり從つて北海道知事が該承認に基き甲地の買收処分を爲さなければならぬものであつて被告の権利が將に危殆に瀕した場合之が侵害せられるのを俟たず予め之が侵害を防止するの手段を構じ得べきは当然であり原告に於て共有する権利を保護する爲被告に対し処分禁止の裁判を求め得べきこと論を俟たざるところであるからこの点に於ける被告の抗弁は理由無いものであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人等原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め原告主張事実中甲乙両地が原告主張の樣に近く其使用目的を変更するのが相当な土地であるとの事実は爭うが其の余の事実は之を認るめと述べ尚仮に甲乙両地が近く其使用目的を変更するのが相当な土地であるとしても該土地を買收から除外する爲には旭川市農地委員会が北海道農地委員会の承認を得又は北海道農地委員会が自ら各其旨指定した土地でなければならない然るに右甲乙両地に付いては孰れも其旨の指定が無い從つて右甲乙両地を買收から除外すべきで無いこと勿論であるのみならず昭和二十二年一月二十六日農政第二四六〇号土地区画整理地区に関する自作農創設特別措置法第五條第四号の指定基準等に関する件と題する農林内務両次官の通牒に依り設置せられた北海道都市計画法適用市町村の買收除外並賣渡保留地区委員会に於て昭和二十三年五月三十一日本件甲乙両地共買收し且之を賣渡して差支ないものと決定され該決定は同年九月十一日農林大臣の認可が有つて確定した而して右都市計画法適用地区に於ける農地の買收除外及賣渡保留の決定は独り右委員会が決定権を有するものであつて然も該決定が最終のもので之が確定すれば又爭うことを得ないものである從つて本件甲乙両地とも前記決定が確定した以上之を買收するのは当然であり原告は之を爭うことを得ないものであるから此の点からしても原告の本訴請求は失当である又原告は乙地外三百三十筆の農地に対し一括して買收計画を樹て乍ら内百二十一筆に対し異議の申立が有つたところ該異議に付決定せず異議の申立が無かつた乙地外百八十七筆の土地に対し買收計画を進行したのは自作農創設特別措置法第八條に違反し不法である旨主張するが買收に関する手続は例へ一括して之をしても各筆毎に独立して存するもので右第八條の法意は各筆毎に異議申立が数箇あつた場合其総てに対し決定し又は数箇の訴願が併存した場合其総てに対し裁決した後其各筆の農地に対し買收計画を進行すべき旨定めたものであつて原告主張の樣な趣旨の規定で無いから乙地に対する買收処分には原告主張の樣な違法無く此の点に於ける原告の主張は理由無いものである又自作農創設特別措置法施行令第三十七條に依れば農地買收計画の公告は市町村農地委員会に於ては各其役場の掲示場に掲示して之をしなければならないのであつて此の規定に從い旭川地区農地委員会及旭新地区農地委員会が夫々其農地買收計画を旭川市役所の掲示場に掲示して爲したもので極めて適法であり不在地主である原告に対する告知方法が違法である旨の原告の主張は当らない尚本件訴は本質に於て行政訴訟で有るが行政訴訟は行政処分の取消又は変更を求める訴であつて其前提として行政処分の存在することを要するものである然るに甲地に対しては僅かに旭川地区農地委員会が其買收計画を樹て之を公告したに止り被告に於ては未だ何等の処分もして居らないのである然るに原告は之が処分を爲すに先んじて買收処分の禁止を求める訴を提起したのは行政処分無きところ行政訴訟なしとの行政訴訟の原則に反するものであつて許さるべきで無く原告の甲地に対する本件訴は此の点に於ても失当であり以上の各理由に依り原告の本訴請求は棄却を免れないと抗弁した。(立証省略)

理由

原告が札幌市に居住し本件甲乙両地を所有し該土地を訴外神原しめ外三名に貸与して來たところ右神原しめ外三名が該土地を現に農耕の用に供して居る事実及び旭川市旭川地区農地委員会が甲地に対し又乙地に対しては同市旭新地区農地委員会が各原告主張の通り買收計画を樹て原告主張日時原告主張の通り旭川市役所の掲示場に掲示して右農地買收計画の公告を爲した事実並び甲地に対しては原告から原告主張日時異議の申立を爲し旭川地区農地委員会が該異議の申立を却下し次で之に対し原告が更に訴願を爲したが北海道農地委員会が該訴願を理由無しとして棄却し又乙地に対しては異議の申立が無かつた爲原告主張の樣に買收手続を進行し原告に対し買收令書を交付するに至つた事実は総て当事者間に爭いの無いところである從つて本來ならば右甲乙両地とも不在地主の小作地として自作農創設特別措置法第三條に依り政府に於て之を買收すべきものであると謂うことが出來る之に対し原告は該甲乙両地共近く其使用目的を変更するのが相当な農地であるから自作農創設特別措置法第五條第五号に依り買收から除外さるべきであると主張し被告は之を爭うを以て判断するに自作農創設特別措置法第五條第五号の規定は近い將來に於て其農地が其使用目的を変更し宅地又は工場地等にするのが相当と思われる樣な状態になるべき農地であるならば買收から除外するとの趣旨と解すべきであつて近く其使用目的を変更するのが相当であるか否かは該土地に関する諸般の状況に依り客観的に之を決定すべきものである而して甲第一号証同第三号証同第五号証の一、二、乙第一号証同三号証同第六号証同第九号証同第十号証同第十一号証の一、二及び証人時田民治同井上佐市同西岡愛之助同原田一成同荒谷圭三同山内和三郞同山本政治郞同藤井敬三同伏見茂雄同花輪武平同淸水武夫同山下甚藏同奧田光雄同神原しめ同阿部英治同佐藤豊次同田中邦夫同橋本理助同若松宗七同川口重市同木下栄吉の各証言並び檢証(一、二回)の結果を綜合して考えれば乙地に付いては一時該地上に病院を建設しようとする企てあり又昭和十一年頃から新旭川第一土地区画整理組合が土地区画整理をし又國策パルプ株式会社の工場其の他二、三の大工場より余り遠くない処に位置し旭川市としては將來同市の発展を此の方面に期待して居り窮極に於ては工場地又は宅地となる可能性ある農地である事実は認めることが出來るが該土地は住宅密集部から相当離れて居つて附近には僅かに農家が散在するに止まり近時該方面に住宅等の建築せらるる模樣皆無であり乙地が近き將來に於て宅地又は工場地等に其使用目的を変更するのが相当である樣な状態に立ち至るものとは到底認めることが出來ない然し乍ら甲地は現に其周囲が殆んど宅地と化した土地に囲繞せられ其周辺の土地は外一筆を除き総て買收除外地又は賣渡保留地となつて居り又該土地に住宅を建築しようとする企ても有り附近に住宅の新築せられ居るものも有る樣な状態である事実が認められ原告被告の提出に係る其の他の証拠に依つては未だ右認定を左右することが出來ない而して市街地に在つては農村と異り人家櫛枇するものであつて住宅等櫛枇する中に自作農を創設し農業を経営せしめねばならないと謂うが如きは凡そ一般人の常識に反するものであつて其不当であること論を俟たないところである從つて甲地は近くと云わんより寧ろ現在既に宅地として其使用目的を変更するのが相当な状態に在る土地であると謂うことが出來る被告は之に対し「仮に近く其使用目的を変更するのが相当な土地であつても其旨の指定が無いから買收から除外せらるべきで無い又北海道都市計画法適用市町村の買收除外並び賣渡保留地区委員会に於て甲地の買收賣渡とも差支無い旨決定し該決定は農林大臣の認可が有つて確定した而して農地の買收除外及び賣渡保留に付いては右委員会が独り認定権を有し該委員会の決定が確定すれば最早や之を爭うことが出來ないものである旨抗弁するも自作農創設特別措置法第五條第五号は近く其使用目的を変更するのが相当な農地であつたならば市町村農地委員会は都道府縣農地委員会の承認を得又は都道府縣農地委員会が自ら其旨指定して買收を爲さないとの趣旨であり之が指定を爲すべき状態に在る農地であつても之が指定をすると否とは全く同委員会の專断で決定すべきものであるとの法意であるとは到底解し難く右指定は所謂法規採量に属するもので所謂便宜採量の処分に属しないものであつて之が指定すべき場合之を爲さないことは不法な処分を爲したものであること勿論である從つて本件甲地が前記認定の通り近く其使用目的を変更するのが相当な土地であるから自作農創設特別措置法第五條第五号の指定を爲すべきであるに拘らず之が指定を爲さなかつたのは不法であり農地買收処分に関する一連の行爲として牽いて買收処分の不法を來すものであること勿論である又特定の場合にのみ行政処分に対し訴訟を提起することが出來るとした旧憲法時代と異り違法な行政処分に依り権利を侵害せられた者は原則として裁判所に其権利の保護を求めることを得るものとした新憲法下に於ては從來の行政訴訟の観念を以て之を判断すべきでなく前記の樣に自作農創設特別措置法第五條第五号の指定を爲すべきに之が指定を爲さず買收除外並び賣渡保留地区委員会が買收及び賣渡ともに差支無しと決定したとしても該決定が最終のもので又之を爭うことが出來ないものと謂うが如きは從來の行政訴訟の観念であり正当とすることが出來ず該決定も亦裁判所の判断を受くべきものであり該決定が不法であることは前記認定の通りであるから被告の此の点に於ける抗弁も亦理由無く之を採用することが出來ない」被告は更らに本件訴は本質に於て行政訴訟であり行政訴訟は行政処分の存在を前提とし之が取消変更を求める訴に限るのに拘らず予め行政処分の禁止を求める原告の本訴請求は失当である旨抗弁するに依つて考えるに不法な行政処分に因り権利を侵害せられた者が原則として裁判所に其保護を求めることが出來る現時に於ては其訴が許さるべきや否やは司法権が不当に行政権に干渉するの結果になるや否やに依り決定すべきであり被告の抗弁も結局裁判所に於て行政廳の処分が爲されるに先んじて之を禁止するが如きは裁判所が恰も行政廳を指揮する樣な結果となり三権分立の精神から見て司法権が不当に行政権に干渉するものであつて之を許すことが出來ないと謂うに在るのであつて行政処分が爲される否や又爲されるとしても其程度方法等不明な場合予め裁判所が之に対し或る処分をすることを禁止し又は或る処分を爲すべき旨命ずるが如きは司法権が不当に行政権に干渉するものであつて之を許すことが出來ないものと謂うべきであり又或る種の行政行爲が爲されることが確定した場合でも之に対し異議又は訴願を爲し行政廳に対し一應考慮する機会を与え司法権の干与を成るべく避け樣とする規定のあるときも行政事件訴訟特例法が訴願前置主義を採用した点から見て予め該処分の禁止又は該処分を爲すべきことを命ずるは行政廳に対し一應の考慮をする機会を与えずして裁判所が之に関与するの結果となり許すべからざるものであるが本件甲地に付いては前記の通り買收計画に対する異議が却下せられ更に之に対する訴願も亦棄却せられたので該買收計画に対する北海道農地委員会の意思は之に依り決定せられたものと謂える從つて旭川地区農地委員会から北海道農地委員会に対し右買收計画に対し承認を求めた場合同委員会に於ては之に対し承認を与えるべきこと必至であり北海道知事は法規上之に基き買收令書を発しなければならないものであるから買收処分の爲されることが必然であり原告の甲地に対する所有権は將に不法な買收処分に依り侵害せられ樣として居ると謂うべきである斯る場合当然來るべき不法な侵害行爲を甘受し其処分あり権利を侵害せられた後でなければ之が救済を求めることが出來ないとするが如きは基本的人権の尊重を期する新憲法下に於て到底正当な解釈で人権の保護に欠けるとが無いものと謂うことが出來ないのみでなく知事の買收処分に対しては異議又は訴願を爲すことを認めて居らないのであるから前記の通り行政廳から再度考慮する機会を奪つたと謂うことが出來ないので予め之が処分の禁止をしても何等不当なことと謂うことが出來ないので此の点における被告の抗弁は行政処分に対しては特に法令で認めた場合のみ訴を提起することを許した旧憲法時代の考えに基くものであつて到底正当なりと謂うことが出來ず之を採用するに由無いものである以上の如く被告が本件甲地の買收処分を爲すのは違法であつて之が買收の禁止を求める原告の本件訴は正当であり之を認容すべきである然し乍ら前記認定の通り乙地は近く其使用目的を変更するのが相当な農地と謂うことが出來ないので旭川市旭新地区農地委員会が之を買收すべきものとして買收計画を樹て之が公告をしたのは相当である之に対し原告に於ては該公告は旭川市役所の掲示場に掲示したに止まり不在地主に対する告知方法としては不能を強ゆるもので無効である旨主張するも農地改革は急速に之を実施する必要上各個人の権利を十分に考慮する余裕が無かつた関係から自作農創設特別措置法施行令第三十七條は市町村農地委員会の公告は市町村役場の掲示場に掲示して爲すべき旨規定して居り旭新地区農地委員会は該規定により公告したものであつて不在地主等に対する権利の保護に多少欠けるところがあつたとしても農地改革を早急に実現せねばならぬと謂う社会福祉の爲め止むを得ないところであつて該公告を目して無効であるとは謂うことが出來ず此の点に於ける原告の主張は理由無いもので之を採用することが出來ない更に原告は旭新地区農地委員会が原告外百二十六名所有の三百三十二筆の農地に付買收計画を樹て之が公告をし内四十六名から其所有に係る百八十九筆の土地に付異議の申立が有つたのに拘らず之等の異議に付決定すること無くして乙地外百八十七筆の土地に付買收手続を進行したのは自作農設創特別措置法第八條に違反するものであると主張するも農地の買收手続に各一筆の土地毎に独立して爲されるべきもので例え多数の土地に付一括して買收手続をしたとしても夫は各土地に対する農地買收手続を進行するに当つて手続の便宜を計る爲時を同じくして之を爲したに過ぎないものであつて多数の土地に対し一つの手続に依つて之をするものとは謂うことが出來ない而して自作農創設特別措置法第八條の規定は各一筆の土地に多数の利害関係人が有つた場合之等利害関係人から該農地の買收計画に付数個の異議が有つた場合其総てに付決定し又は数個の訴願が有つた場合其総てに付裁決し該土地に対する爭いが全く無くなつたとき始めて該土地に対する爾後の買收処分である買收計画に付承認を受くべき旨の法意で有つて原告の主張する樣な趣旨では無いから原告の前記主張は夫れ自体理由無いものである從つて多数の農地に対する買收計画を一括して爲した場合異議の無い農地に付いてのみ買收手続を進行したことが不法であるとの前提に立つ原告の其の余の主張は改めて之を判断する迄も無く失当であつて採用するに由無いものである然うであるならば乙地の買收処分は原告の主張する樣な違法なもので無く極めて正当なものであり原告の本訴請求中乙地に対する買收処分の取消を求める部分は失当であり棄却を免れない仍て民事訴訟法第八十九條第九十二條に則り主文の通り判決する。

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